惑星ソラリスに向かっているよ

東方Projectの二次創作をやってるソラリスのブログです。書いてみたもの、描いてみたものなんかをまとめたりするブログです。

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寒い日の過ごし方

  寒い日の過ごし方



 館の大きな扉から外へ出ると、抜けるように高い青空が広がっていた。
 11月のとても冷え込んだ朝に、ぴんと張り詰めた空気と乾いた匂い。
「もうすぐ冬ね」
 この分だと雪が降るのもそろそろかな。
 トレーに載せたティーポットの中身が冷めないように、足を速める。
 美鈴はちゃんと仕事してるかしら。
 門の向こうに、暖かそうな冬の格好に身を包んだ美鈴が立ち番をしているのが見えた。
 大きな外套を羽織って、長いマフラーをぐるぐる首に巻いて。
 真面目に仕事してるみたいね。
 そっと近づいて行く。
 ん……? ゆらゆらと美鈴が揺れているような……
 もっと近づいてみる。
 ほとんど真横から顔を覗き込むと、うとうとと居眠りをしていた。
 やっぱりね。
 暖かい服装が裏目に出てしまったんだろうか。
「美鈴」
 耳元に口を寄せ、小さな声で呼びかける。
「ん……んー……あ、咲夜さん。寝てないですよ?」
 ぼんやりと目を覚まし、とっさの言い訳。
「ゆらゆら揺れてたわよ」
「ごめんなさい。ちょっと寝てました」
 それでもあっさりと居眠りを認めて、あんまり悪くなさそうに微笑む。
 そんなふうな顔をされると怒ったりできないのはいつものこと。
「しょうがないわねぇ。気分転換にお茶にしましょ」
 美鈴を誘って、近くの木の根元に腰掛けた。
 地面をふわっと覆う落ち葉は赤や黄色。
 最近、美鈴にお茶を持ってきては、隣で一緒に飲むのが習慣になってしまった。
 サボっているつもりじゃないけど、やっぱりサボってることになるのかしら。
 お嬢様は気づいているようだけど特に何か言われるわけでもないし、むしろなんだかニヤニヤと送り出されているような気もする。
 まあ、美鈴の仕事の様子を見るのと私の休憩時間ということで、一石二鳥ということにしておこう。
 持ってきたティーポットに被せられたコゼーを外し、手早く紅茶を注ぐ。
 熱々の紅茶からふわふわと湯気が立つ。
「はい、どうぞ」
「いただきます」 
 そう言って一口、紅茶をすする美鈴。
「おいしいです」
 白い息を吐きながら、いつものように答えてくれた。
「息白い。もう冬ね」
「そうですねー。葉っぱもこんなに赤くなって」
「掃除するのが大変なのよ」
 あたりを見回し地面を覆う落ち葉の量に少しため息。
 そんな私を見ながらも美鈴はちょっと楽しそう。
「集めたら焚き火ができますよ」
「もしかして、焼き芋が食べたいの?」
「え!? どうしてわかったんですか!?」
「落ち葉で焚き火と言ったらその辺かと思って。と言うかほんとにそうだったのね」
 呆れたような苦笑いを向けてしまう。
「あはは。咲夜さんには何でもお見通しで困っちゃいますね」
 全然困って無さそうな雰囲気。むしろ楽しそうに美鈴が笑う。
 でも焼き芋はちょっと食べたいかもしれない。
 午後に買い物に出たらお芋を買ってきて、明日あたり二人で落ち葉を集めて焼き芋をしよう。
「そうね、明日しましょうか」
「いいんですか? 嬉しいな」
 美鈴が目を輝かせる。
「たくさんお芋買ってきてくださいね。お嬢様とか皆さんで食べましょうね」
「もちろんよ。お嬢様の分を忘れたなんて知れたらどんなに機嫌を悪くされるか」
「そうですよねー」
 二人で顔を見合わせて笑いあう。
 なんでもない会話を楽しむような、こんな時間がとても愛おしく感じた。
 ぴんと張り詰めた空気を柔らかく緩ませる、温かい紅茶のような時間。
 最近の私はこの時間をとても大切に思っている。
 そんな大好きな時間を楽しんでいるうちに、紅茶の湯気も消えてしまった。
 11月の空気は、こんな柔らかい日差しの下でもやっぱり冷たい。
 私も少し冷えてきてしまったみたいで、両腕を抱えるように縮こまる。
「あ、ごめんなさい咲夜さん。寒いですよね」
 そんな様子を目に留めて、すぐに自分の大きな外套を脱いで私の肩に掛けてくれた。
「でも美鈴が寒いじゃない」
「私は大丈夫ですよ。おいしい紅茶で十分温まりましたし。あ、これも」
 美鈴はマフラーまで外して、そのままぐるぐると私の首元に巻きつけた。
 かなり長めなマフラーに口元まで埋まってしまった。
 ふわっと美鈴の体温を感じて、頭に熱が昇るような感覚。
「でも……」
「ほんとに大丈夫ですよ」
「だめよ……美鈴が寒くなっちゃう」
 いくら種族が違っても寒さを感じないわけじゃない。
 そんな思いをさせたくはなくて、美鈴の顔を見上げる。
「んー、じゃあこうしましょうか」
 美鈴は私の肩にかかった外套を一旦取り上げるとぴったりと私に肩を寄せ、二人一緒に入れるように掛ける。
「あ、これもですね」
「え?」
 今度は私に巻かれたマフラーを少し外して、自分の首にも一緒に巻きつける。
「ほら、これならふたりとも暖かいですよ」
 良い事思いついたというように、にっこりと微笑んでくる。
 顔が近い。ドキドキする。
 吐息が掛かりそうな距離。
 でも、嬉しいドキドキだと思った。
 前までの私なら、つい突き放してしまっていたかもしれない。
 でも今なら、少しだけ素直になって、美鈴の体温でほっこりと温まりたいなと思ってしまった。
 甘えるように、美鈴の胸元に頭を埋めるようにしてもたれかかる。
「ほんとね。ちょっと落ち着く……」
 口元のマフラーに遮られ、くぐもったように呟く。
「ゆっくり休んでいったらいいですよ」
 耳をくすぐるように、温かい吐息で囁く。
 それはきっと、私の弱さを見せてもいいかなって思ったから。
 完璧で瀟洒な自分は、美鈴の前でだけお休みしよう。
「ありがとう。お言葉に甘えて」
 私は身体を美鈴に預けて、薄く目を閉じる。
 秋の風が木の葉を揺らし、かさかさかさと音を鳴らす。
 まぶたの向こうを赤や黄色が彩って、ほわっと気持ちが安らいで。
 そして、美鈴のことをとても愛おしく感じた。




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甘えんぼうのおいしい秋

  甘えんぼうのおいしい秋



「アリスー! 開けてー!」
 一抱えより大きいバスケットを両手に提げ、アリスの家の前で呼びかける。
 バスケットいっぱいのキノコから漂ういい匂い。
 秋の匂いだぜ。
「はーい! 開いてるわよー!」
 中からアリスの声。でも手はふさがってるのぜ。
「わるーい! 開けてくれー!」
 冷たい風を肌に感じながら開くのを待つと、すぐにアリスが顔を出してきた。
「え? ちょっとなにこれ」
「大収穫だったぜー」
 バスケットをアリスの目の前に掲げると、アリスが目を丸くした。
「一緒に食べようぜ! 旬だからなー」
 思わず口元が緩んでしまう。
 おいしいきのこ料理を食べさせたくて、今朝美味しそうなやつを取ってきたんだ。
 そうだなー、まいたけは天ぷらで、しめじは焼いて食べよう。炊き込みご飯もおいしいし、なめこの味噌汁も外せない。
「えっと……二人で?」
「もちろんだぜ!」
「……」 
 戸惑ってるようなアリス。あれ? びっくりさせすぎちゃったかな?
「……アリス?」
「あ、いや、こんなにいっぱいあるなら、神社にでも行って食べない? 霊夢も喜ぶと思うし」
「え? あー、そうかもだけど……」
 霊夢は喜ぶかもだけど……
「他にも誰か呼んでもいいかもしれないし」
 他にも!? 賑やかでそれはそれで楽しいかもしれないけどさ……
「アリスと……食べようと思ってたんだけど……」
「うーん、でも二人で食べるにはちょっと多いような……」
「でもみんなと一緒だと……減っちゃうし」
「キノコが?」
「いや……アリ……」
 アリスが……なんだけど……
「いいだろ? 今日はアリスの家に来たんだぜ。」
 強引に押し切る作戦。アリスの顔をじっと見つめる。
「はぁ……しょうがないわねぇ。」
 呆れながらも招き入れてくれる。
 やった。ほっと息をつく。
 よーし、おいしいごはん作るぜー。



 七輪の煙がちょっと目にしみる。
 窓は全開だけど少し煙い。
 網の上には、そろそろいい具合のしいたけとしめじ。
 きのこの炊き込みご飯がいい匂いを漂わせているし、お味噌汁もばっちりだ。
「あとはまいたけを天ぷらにするだけだぜ」
 これがまたとびきりおいしいんだよなー。さくっとしてじゅわっと旨みが出てきて。
「魔理沙って和食作るの上手よね。感心しちゃうわ」
 アリスが後ろから声をかけてくれる。
「日本人だからな。でもアリスの作る洋食のほうが上手だし、おいしいと思うよ」
 そう言いつつも素直に嬉しいな。
 からっと揚がった天ぷらを引き揚げて、古新聞に載せて油きり。
「アリス、よそうの手伝ってくれる?」
「もちろん。おいしそうな匂いねー」
「いいきのこいっぱい取ってきたからな。間違いないぜ」
 アリスがごはんをよそってる隙に天ぷらを一つつまみ食い。
 うん。おいしくできた。
 アリスの喜んでくれる顔を想像したら幸せな気持ちになった。



 ダイニングテーブルに並べたたくさんのきのこ料理。
 炭火で焼いたしめじとしいたけ、まいたけの天ぷら、炊き込みご飯とお味噌汁にもきのこがいっぱい。あましょっぱいきのこの煮付けもおいしくできた。
「さあアリス! 食べていいぜ!」
「すごーい! ほんとにおいしそう!」
 歓声をあげるアリスを眺めながら、ちょっと呑もうかなと思って燗をつけていたお酒をお猪口に注ぐ。
 アリスは「まずは食事をいただいてからね」、と日本茶を淹れていた。
 行儀よく手をあわせて、いただきますとつぶやくアリスを眺めながらお酒を一口。
 おいしい。もう一口飲んでお猪口を空ける。
 どれから食べようか迷ってたらしいアリスが、まずはとお味噌を飲む。
「おいしい。すごくいい出汁が出てる」
 ほっこりと嬉しそうに笑う。つられて私も笑ってしまう。
 ごはん、天ぷら、煮付けと次々に口に運んでは、幸せそうに頬を緩ませるアリスを見てると幸せな気持ちになる。
 やっぱりこの笑顔は私の前だけがいいな。
 お銚子からお酒を注いで、溢れそうになるところを慌ててすする。お銚子が一本空いた。
「どれもほんとにおいしい。ほんと、意外よね」
 アリスが食卓の料理を改めて見回すと、そんなふうにほめて笑った。
「意外ってなんだよ。でも普通だぜ」
 照れくさくなって、お猪口を口に運ぶ。空いたらすぐ次を注ぐ。
 うん。今日のお酒はほんとうに美味しい。何杯でも呑めそうな気がする。
「今日は少し早くない?」
「大丈夫だぜー」
 テーブルの料理はどんどんおなかの中に消えて行って、同じようにお酒もするするなくなっていく。
 すぅっと喉の奥に消えて行くような感じで……また空いたぜ。三本目。
 もう一本呑も。あ、そだ。
「アリスも呑まない?」
「じゃあ少しね」
 椅子から立ち上がり台所に。ちょっとふらっとして転ばない。転ばないぜ。
「魔理沙、大丈夫?」
「ん? 大丈夫だぜー」
 お銚子を三本、燗を付ける。
 やかんに入れたお銚子が揺れてかちかちと音を鳴らす。
 まだ熱燗ってほど寒くもないし、ぬる燗くらいがちょうどいい。
 適度に温まったくらいで火を止めて、お盆に載せて食卓へ戻る。
「できたー」
「魔理沙、ふらふらしてるわよ」
「ふらふら? してないぜ?」
 アリスのお猪口にお酒を注ぐ。
「じゃあかんぱーい!」
「なにに?」
「んー、私とアリスが幸せでいられますようにー」
 ちん、とおちょこを鳴らす。
「ちょっとなによそれ」
 くいっと呑み干し次を注ぐ。
「幸せは、二人だけがいいのぜ」
「ばかね……」
 アリスもおちょこを空ける。おー、いいねーいいねー。
「かわいいぜー。アリス照れてる」
 ついにやにやして、お酒をおかわり。
「さあ、アリスももう一杯」
「はいはい」
 照れながら差し出してくるお猪口にお酒を注ぐ
 かわいいなぁ。
「ちょっと! こぼれる!」
「おーとっと」
 アリスに見とれてたらこぼしちゃったぜ。
「アリスがかわいいからだぜ」
「なに言ってるのよ! ぼーっとしてるからでしょ」
 へへへ。怒られちゃったぜ。
 怒った顔もかわいいぜー。
「ふー、アリスと一緒だと楽しいなー」
「完全に酔ってるわね」
 そうかな? ほろ酔いくらいだと思うけど?
「そんなことないさ。酔ってるとしたらアリスに酔ってるのぜ」
「……お水持ってくるわね」
「いいー。いらないー」
 私の横をすり抜けて行こうとするアリスの腕を取って抱きかかえる。
「アリス? 怒った?」
「怒ってないわよ。でもちょっと呑みすぎね」
 優しい笑顔。ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。
「ごめんなさい」
 急に悲しくなってきた。
「謝ることないわよ。おいしいごはん、ごちそうさまでした」
「アリスと一緒に食べたかったんだぜ。アリスが喜んでくれる顔見るのは私だけがよかった……」
 あと寂しい感じ。アリスの腕をもっとぎゅっとする。
「ちょっと休みましょ」
 アリスにまとわりつくように移動して、ソファーに沈み込む。
「アリスはみんなに愛されてるから、みんなと一緒だと私の分が減っちゃうのぜ」
「魔理沙だってみんなと仲いいじゃない」
「でも、私は……」
 アリスの顔を見上げる。優しい顔で私の顔を覗き込んでくれる。
「ぎゅってして」
 大好きな顔をまっすぐに見れなくて、アリスの胸にうずくまる。
 すぐに私の背中に腕をまわして包みこんでくれた
「今日は魔理沙、甘えん坊さんね」
「うー、そんなことないはずなのに、全く否定できないぜ」
 くすくす笑うアリスの振動が伝わる。
 温かい。安心する。
「ごめん」
「今日だけよ」
 お酒のせいかな。急に眠気が来た。
「寝てもいい?」
「風邪引くわよ。毛布取ってきてあげる」
「うん……もうちょっと……」
「しょうがないわね。上海、お願いできる?」
「シャンハーイ」
 アリスのそばにいた上海がベッドルームに向かっていく。
 髪の毛に触れる手の感触が気持ちいい。
「……撫でてくれるの……なんかいい」
 アリスがゆっくりと髪を撫でてくれるのが温かくて……
 ふわっと……意識が……落ちていく……
 そっと頭が持ち上がって……ああ、毛布……
 ありがと……上海。
 アリスの匂いの毛布……
「……おやすみなさい」
 ささやきが耳をくすぐる……
 そして頬に触れる……柔らかい……


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魔理沙に負けない!

  魔理沙に負けない!


「じゃあ魔理沙は私のほうが足が遅いって言いたいのね」
「そんな風には言ってないのぜ!ただ、アリスは家にこもりがちだからもうちょっと運動したほうがいいんじゃないかってだけだぜ!」
 つい声を荒げてしまう。日曜日ののどかな午後だったはずなのに……
 後悔の気持ちはあるけれど、それでも冷静じゃない頭はどんどんきつい言葉を準備する。
「違うでしょ! それだけじゃなかった! アリスなんか自分には結局なんにも勝てないみたいな言い方してたわよ!  私のこと見下して馬鹿にしてるんでしょ!?」
「そんなこと言ってないだろ! 私はアリスは全然運動しないから、かけっことかしたら私が勝っちゃうなって言ったんだぜ」
「かけっこして『も』って言ったのよ魔理沙は!」
「なんだよそれ! 揚げ足取りかよ!」
「いつも自分のほうが優秀だって思ってるんでしょ!? だからそんなことつい口から出てくるのよ。完全に失言よね」
「そんな事思ってないのぜ。アリスのこといつもすごいって思ってるし、尊敬してるし」
「どうだか。にわかには信じられないわね」
「……」
 魔理沙が黙ってしまう。
 つい言い過ぎたような気がするけど、魔理沙が私のこと少し下に見てるような気がしてたのは本当だもの。
 魔理沙は最近調子に乗ってるような気がする。
 なにか危ない目に合う前に、少し怒って反省してもらおう。
 テーブルを挟んで向かい側に座る魔理沙はだんまりを決め込んで何か考え中。
 なにか反省の言葉でも考えてるんだろうか。
「そうだ! じゃあ実際かけっこしてみようぜ!」
「はぁ!?」
 全然反省の言葉なんて考えてなかった。
 え? というか何?
「かけっこ、ですって?」
「ああ! なんだかこのままじゃ埒が開かないのぜ。だったら実際に勝負したらいいんじゃないか?」
 得意気な笑顔。
「なに言ってるのよ。私が怒ってるのはそこだけじゃなく……」
「少しハンデやろうか?」
「ハンデなんて要らないわよ!!おんなじ条件で勝ってやるわよ!」
 ドンっ、とテーブルを叩いて立ち上がる。
 …………
 しまった……挑発に乗ってしまった……
 魔理沙のにやにや笑いが憎たらしい。
「じゃあ、決まりだな。場所は……博麗神社の参道でいいかな。あそこだと真っ直ぐできれいな道だから走りやすそうだし」
「……」
「さっそくこれから行くか!」
「ちょっと待って……」
「ん? どうした?」
 このまま魔理沙の思う壺ではいけない。
「……準備期間が欲しいの。一週間後にしましょう」
 一瞬きょとんとする魔理沙。でもすぐに楽しそうな笑顔に戻る。
「いいぜ。一週間後に博麗神社の境内な」
「あともういっこ」 
「ん? なに?」
「負けた方は勝った方の言うこと、何でも一つ聞くってのはどうかしら」
 これは私のモチベーションのため。意味のない勝負はしたくないもの。
「なんでも……?」
「そう、なんでも」
 魔理沙が何か目を泳がせて考えている。
 だんだん顔が赤くなってきて、もじもじと身体をくねらせる。
 いったいどんなことさせるつもりなんだろう……
「受けて立つぜ!!アリス、覚悟するのぜ!」
 負けるつもりはないけど、なんだか不安になってきた。




「で、運動するときに必要なものを欲しいなと思ってきたんです」
「ふむ」
 次の日になって、私は香霖堂に来ていた。
「なんかあるだろ?香霖」
 隣には魔理沙。
 自分だけ有利な条件で勝負するのはどうかなと思って。
 魔理沙なら霖之助さんにも顔が効くし、いいものを出してくれるかもしれない。
「そうだな……それならちょうどいいものがあるよ」
「おお! じゃあそれをいただくぜ」
「お代はちゃんともらうよ」
「つけといてくれ」
「利息は高いよ」
「出世払いだぜ」
 霖之助さんがふぅーっと疲れたようなため息を付いて、店の奥に行ってしまう。
「ちょっと魔理沙、ちゃんとお金は払わないと」
「香霖には前、すごく高価なものを掠め取られてるからな。このくらいそのお釣りみたいなものだから大丈夫だぜ」
 そう言っていたずらっ子そのものの笑顔を見せる。
 霖之助さんは一体なにを持ってくるのだろうか。
 きっと外の世界のすごいものに違いない。
 二人でなんとなく店内を見ていると、奥から霖之助さんが戻ってきた。
「これだよ。運動といえば外の世界ではこれに決まってる」
 そう言って、魔理沙に紺色の小さな布を渡す。
「おー、どれどれ」
 嬉しそうに受け取った魔理沙が布を目の前で開いてみる。
 って……え?
 魔理沙も私と同じような反応。
 なんというか……これは……
「ブルマっていうんだ。とても運動に適した形状をしているだろ。香霖堂自慢の逸品だよ。これは大事なコレクションで本当は売りに出したくはなかったんだが……」
「いやいやいやいや」
「ちょっと霖之助さん、これは……」
「こんなの履いたら、太ももとか……おしりとか……」
 この小さな布が運動着だなんて……
 こんなの履くなんて……恥ずかしい……
 魔理沙も恥ずかしがってもじもじと顔を赤らめている。
 その仕草はかわいいけど、これを履くのはちょっと……
「いやいや、これは外の世界では女性開放のシンボルとして着用されていた、誇るべき衣服だよ。そんな恥ずかしいだなんてとんでもない。」
「そんな事言ったって……」
 魔理沙が赤くなる。
 自分だってこんなの履くのは恥ずかしい。
 太ももは露になるし、もしかしたら走ってるうちにおしりもはみ出してしまいそうだ。
「それは機能を追求した結果だよ。走る時に丈の長いものを履いていたら足に絡まって走りにくいだろ? 道具屋の目から見ても、これは素晴らしく理にかなった衣服だよ」
 なるほど霖之助さんの言うことは確かにその通りかもしれない。
 これを履くのは恥ずかしいけれど……
 私はどうしても魔理沙に勝ちたい!
「霖之助さん、これいただきます」
「あ、アリス!?」
「魔理沙に勝つためなら、できるだけのことをしたいもの。魔理沙はどうするの?」
 私は魔理沙をまっすぐに見つめる。
 魔理沙は目を泳がせ、真っ赤になって、俯いてしまった。
「私にも……ひとつくれ」



 また次の日。今日はパチュリーを訪ねてきた。
「魔理沙と競走ねぇ。どうしてそんな事になったの?」
「まあ、ちょっと売り言葉に買い言葉ね」
 今日は魔理沙とは別行動。
 一緒に行かないか聞いたんだけど、「私は別で特訓するのぜ」とか言って来なかった。
 小悪魔に必要な本を探してもらっている間、おいしい紅茶をいただく。
 さすが紅魔館の図書館。外の世界の参考書もあるらしい。
「勝てるの? あなた、そんなに運動得意そうにも見えないけど」
「実際やってみないとわからないけど、魔理沙だってそんなに運動してるとは思えないし。そのために私も特訓しようと思って」
「確かに。魔理沙もいつもほうきだものね」
 まだ5日もあるんだから、ここで借りた本を参考に頑張ってみよう。
「勝ったらなんでも一つ言うことを聞いてもらえる約束になってるから、そのためにも頑張らないと」
「そうなの。で、勝ったらどうするの?」
「え!? それはちょっと。考え中」
「本当はもう決めてるんでしょ? なに?」
 んー……やっぱり恥ずかしいな……
「だめ。内緒」
 笑みを向けてはぐらかす。
「まあ、いいけどね」
「パチュリー様、このあたりのでよろしいですか?」
 小悪魔が10冊ほど書物を持ってきた。
「ありがとう。ねえ聞いて、アリスったら魔理沙に口では言えないようなことさせるつもりみたい」
「ちょっ、パチュリー!」
 とんでもないことを言った。
 小悪魔がちょっとほおを赤くして私を見る。
「アリスさん、そんなエッチな事を……」
「なに想像したの!?」
 ひどい誤解だ。
 そんなつもりはないけどこっちが焦ってしまった。
 パチュリーはそんな様子を楽しげに眺めてから、本の山から何冊か見繕って渡してくれた。
「この辺の本が参考になると思うから、持って行っていいわよ」
「ありがとう、パチュリー。絶対に勝つからね」
 持ってきてくれたのはやっぱり外の世界の参考書だった。
 今日を入れて今日を入れてあと5日。
 がんばろう。魔理沙に勝つんだ。



 とうとう当日。
 天気は晴れ。
 気温はちょっと高いけど、風が吹いていてそれほど暑くなくて過ごしやすい。
 私は博麗神社の境内で手足を伸ばして準備をしていた。
 もちろんブルマ。
 上はTシャツという、綿でできた丸首の貫頭衣で、これも香霖堂で頂いた。
 霖之助さんが言うには、Tシャツの裾はブルマの中に入れて着るそうだ。
 そのほうが速く走るのに効率的らしい。
 また、おまけということでゼッケンというものをTシャツに縫いつけてもらった。
 私のものには「ありす・まーがとろいど」、魔理沙のものには「きりさめ まりさ」。
 ひらがなで書くのが様式美とのことだ。
 霊夢の家で着替えさせてもらったんだけど、ふすまを開けて霊夢の前に出てったら霊夢に大笑いされた。
 あんなに笑うことないじゃない……
 大笑いした霊夢は神社の縁側に座って準備運動をする私を見守っている。
 相変わらずにやにや笑いを続けてるのはもういい加減にしてもらいたいところだけど。
「アリス、ひきしまっててなかなかいい体つきね。特に太ももの辺りが……」
「ちょっ、あんまり見ないでよ。なんだか言い方がいやらしいわ」
 思わずしゃがみ込んでしまう。
 必要だったとはいえやっぱり恥ずかしいな。
「いや、確かにいやらしい目付きではあるんだけど」
「やっぱりいやらしいんじゃない!」
「まあそれはそれとして、ほんとに言葉通りの意味で引き締まってて、速く走れそうな脚だなと思って」
「ほんと?」
「うん。アリスって運動とかイメージ無かったから結構意外」
 ふふふっ……この一週間、筋力トレーニングやダッシュの練習を密かに続けたからかな。
 少しは勝てる可能性があるのかもしれない。
「ありがとう霊夢。ちょっと自信がついたわ」
「それで魔理沙に勝てるかは別だけどね。まあせいぜい頑張りなさいな」
 霊夢はいつものように興味がないような雰囲気でお茶をすする。
 私は苦笑いを返し、準備運動に戻る。
「で、魔理沙はいつ来るのよ」
「さあ、お昼にとしか決めてなかったんだけど」
 そう言えば、魔理沙遅いな・・・
 まさか来ないなんてことはないと思うけど。
 太陽も高くなって、そろそろ正午だ。
 一週間会ってなかったから、もしかして勝負の約束忘れちゃったかな。
 本気で魔理沙と勝負したかったんだけどな・・・
 本気で勝負して、魔理沙に認めて欲しかったんだけど・・・
「臆病風に吹かれたかしらねー」
 霊夢がぽつりと言う。
「そんなこと……ないと思うけど」
 ふと、鳥居の向こうを見やる。
 ……あれ?
 石段の下の方から金色の髪が……
「魔理沙!!」
 思わず大声で呼びかけてしまう。
 すぐに顔が見えた。
「アリスー! 待たせたなー!」
 今日は髪をポニーテールにしてるんだ。
 魔理沙の元気なイメージに合っててとても似合ってる。
 そして身体も見えてきて、魔理沙はいつもの白黒の服じゃなくて、すでにTシャツとブルマだった。
「ちょっと魔理沙、その格好でここまで来たの?」
 霊夢が吹出しそうになりながら問いかける。
 魔理沙が小走りにこちらに駆け寄ってきた。
「いいじゃないか。準備運動がてら走ってきたんだぜ。確かに香霖の言うとおり、運動するにはちょうどいいみたいだし」
「二人とも恥ずかしく無いの? その格好」
「いつも脇見せてる霊夢に言われたくないぜ」
「まあいいじゃない。私は魔理沙とお揃いだからちょっと嬉しいわよ」
 二人が言いあいを始めそうな勢いだったので割って入る。
 確かに最初は恥ずかしいと思ったけど、魔理沙の言うとおり運動にはちょうどいいと思った。
 この一週間の練習でよくわかった。
 ブルマってなかなか素晴らしい。
「でももう外の世界ではブルマなんて履いてないのよ。最近の短距離選手のウェアは水着のようなタイプが主流で、ブルマは一部のマニアックな趣味の人達の嗜好品になってるのよ」
 突然あらぬ方向から声がしてとっさに振り返る。
 隙間から半分身体を出した紫がニコニコとこちらを見ていた。
「あんたなにしにきたのよ」
 霊夢が嫌そうな声を出す。
「なんか面白いことになってるなと思って。ちょうど暇だったし」
 そう言って紫は隙間から抜け出てきた。
 いやそんな事より……
「マニアックな趣味のってどうゆうことなのぜ?」
 そう、そこ気になる。
「まあいいじゃないの。二人ともよく似合ってるわよ」
 扇で口元を抑えながら、紫がはぐらかす。
「なんだか素直に喜べないわね……」
「そうだな……」
 魔理沙と二人、なんだか微妙な気持ちで顔を見合わせてしまった。
「もう紫のこと構ってないで、あんたたち早く始めたら?」
 呆れたように霊夢が促され、私たちは鳥居の向こうに目を向ける。
 博麗神社の石段を下りたところから伸びる真っ直ぐな参道。
 ゴールはその先にある、参道の入口のもう一つの鳥居。
 距離は約100m。
「つれないわねー、霊夢」
「あんた、せっかく来たんだからゴールの審判しなさい。私はスタートの合図するから」
 霊夢がそう告げると紫は肩をすくめ、隙間に消えていった。
「さあ、行こうか、アリス」
 魔理沙が右手を差し出す。
 そして私はその手を握り返す。
「本気で勝負よ、魔理沙」



「位置についてー」
 霊夢の合図でスタートラインに立つ。
 左に魔理沙。右に私。
「手加減なしの真剣勝負だぜ」
「もちろん。本気で魔理沙に勝つんだから」
 博麗神社の石段を下りた所。霊夢が黒炭で引いたスタートライン。
 私と魔理沙は並んで、クラウチングスタートの姿勢で位置につく。
「用意」
 腰を上げて二人とも前傾姿勢。
 息を止め、集中。
「どん!」
 魔理沙の反応が早い!
 ずるっ……
 しまった……!
 少し足が滑った。
 視界の端で絶好のタイミングで飛び出した魔理沙を見て、焦ってしまった。
 スタートですでに2mほどのリードを魔理沙に許す。
 それに、魔理沙のダッシュがいい。
 スタートから30mほどで、2mの差が5m近くになってきた。
 背中越しに、魔理沙が得意気ににやけてるような気がした。
 大丈夫、あせらずにリズムよく走れば追い抜ける。
 魔理沙は加速はいいけど、このスピードなら私のほうが速い。
 できるだけ上体を起こして長い歩幅でスピードを上げていく。
 50m。あと半分。
 一歩ごとに魔理沙との距離が詰まっていく。
 これなら追いつける!
 やっぱり、魔理沙にだって負けてない!
 手を伸ばして背中を掴むような気持ちで、一歩、一歩。
 3m、2m、1m・・・
 絶対魔理沙を抜くんだ!
 ゴールまであと20m
 ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……
 ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……
 魔理沙の呼吸が聞こえる。
 私の呼吸も荒い。
 次の一歩で並ぶ!
 左足を気持ち力強く伸ばし、身体を全力で前へと運ぶ。
 並んだ!
 このまま一気に抜きさる!
 並んだのは一瞬。魔理沙を置き去りにして身体1つ分前に出る。
 あと10m。
 勝てる!
 これは勝てる!
 確信した瞬間、左後方からすごい勢いを感じた。
 追い抜いたのに!? 魔理沙がスピードを取り戻して私のすぐ背後に迫ってきた。
 あと5m。
 もう体半分並ばれた!
 4m。
 必死に足を伸ばす。
 3m。
 踏み込んで、身体をできるだけ前に運んで。
 2m。
 それでも魔理沙のほうが速い!
 1m。
 ほとんど身体が並んで・・・
 ゴール!
 急には止まれず、そのまま二人とも10mくらい流して走る。
 ゴールしたあとの勢いは完全に魔理沙で、魔理沙のほうが少し先まで走って行ってしまった。
 立ち止まって、膝に手をついて息を整える。
 同じようにしていた魔理沙と顔を見合わせてお互いに確認。
 でも、二人ともどっちが勝ったのか自身が持てない。
 魔理沙も首をかしげてる。
 やっと息も整ってきた。
 二人でゴール地点の紫のもとに駆け寄る。
「どっちだった!?」
 勢い込んで聞く魔理沙。
 私は魔理沙の後ろで祈るような気持ちで紫の口元を見つめていた。
 紫は楽しそうに目尻を下げた。
「勝ったのは……」
 二人とも息を飲む。



「納得行かないのぜ」
 魔理沙が憮然とした表情で縁側にあぐらをかいて座っている。
 私も魔理沙もまだ運動着のままでくつろいでいた。
「しょうがないじゃないの。魔理沙のほうが少し胸が控えめだから」
 紫がさもおかしそうに笑う。
 結局勝負は私が勝っていたそうだ。
 着差は……胸の差……
 確かに私のほうが少し大きいけど……
「魔理沙は胸小さいからねー」
「霊夢に言われたくないぜ!お前だって似たようなもんだろ!」
 とりあえず、勝ったということでいいのかな?
 嬉しくてなんだかにやけてしてしまう。
「アリス!アリスまでバカにしてー!」
「ちっ、違うの!魔理沙に勝てたのが嬉しくて!」
 魔理沙の怒りが私にまで飛び火しそうになって慌てて否定。
 でも、勝負の結果を改めて気づかされて魔理沙が苦々しい顔をする。
「むぅぅぅ……でも、アリスが勝ったのは間違いないぜ。なんでも言うこと聞く約束だからな……」
 そうだ。勝ったんだから、願い事を聞いてもらわないと。
「なにすればいい? アリス」
 とは言え、こんな霊夢も紫もいる前で言うのはちょっと恥ずかしい……
「え……っと……」
 三人の目が、私に集まる。
「その……」
 考えただけで顔が熱くなる。
 きっと真っ赤になっちゃてるんだろうな。
「どうした? 大丈夫か?」
 魔理沙が私の顔を覗き込む。
「魔理沙……ちょっとこっち……」
「ん?」
 魔理沙が顔を近づけてきたところに、耳打ちするようにこっそりとささやきかける。
「……一緒に……お風呂……入りたいな」
「え!?」
 魔理沙がびっくりして身体を離す。
 顔は真っ赤だ。
 私も恥ずかしくなってまともに魔理沙の顔を見られない。
 嫌だったかな……
「……ダメ?」
 ちょっと魔理沙を見やる。
「だっ、だだだっ、ダメじゃないぜ!!」
 ほんとに!?
 よかった。変な子だと思われたらどうしようかと思っちゃった。
「なんかよくわからないけど、いちゃいちゃしちゃって」
「ほんとね。私たちもいちゃいちゃしましょうか」
「しないわよ」
「ちゃっ、茶化すなよ!」
 にやにやする霊夢を魔理沙が牽制。
「じゃ、じゃあ、さっそくアリスの家に行くか。走って汗かいたのぜ」
「そうね。じゃあ帰りましょうか」
 おうちに帰ってお風呂入ったら、魔理沙においしいもの作ってあげようかな。
 裸の付き合いっていうのに憧れてたんだ。
 ちょっと魔理沙以外には恥ずかしくって頼みにくかったから。
 お風呂でゆっくりお話できるかな。
 まずは今日の結果について、魔理沙から敗者の言葉をゆっくり聞いてあげよう。


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My Summer Summary

  My Summer Summary


 アリスまだかなー……
 命蓮寺の山門に背中を預けてアリスを待つ。
 境内からは縁日の喧騒が気持ちをはやらせる。
 もう30分くらいは待ってるぜ。
 珍しくアリスが待ち合わせにしようって言うからだぜ。
 あと……私が待ちきれなくなったから……
 ちょっと早く来すぎたな。
 夏も終わりとはいえ、昼間の熱気が夕暮れ時になってもまだ残っていて、いつもの白黒ではやっぱり少し暑い。
 喉が乾いた。
 アリスが来たらラムネを飲もう。
 そうだ、もしラムネの飲み方知らなかったら得意気に教えてやろう。
「おー! 魔理沙―! こんにちはー!」
 突然の大声にびっくりして振り向くと山彦がいた。
 えっと……響子だっけ?
「びっくりさせるなよー。よお! 久しぶりだな」
「久しぶりー。縁日に来たのか?」
「他になんの用事で来るんだよ」
「いじめに来たとか……?」
「霊夢じゃあるまいし、異変でもないのにわざわざ妖怪退治なんてしないのぜ……」
 うるさい奴と少し世間話。
 そっちに気を取られていたら、目の前に浴衣の少女が立ち止まった。
 濃紺にあやめ柄の清楚な浴衣に、金色の柔らかな髪をアップにまとめた……
「え……アリス?」
「お……お待たせ……」
 少しほおを赤らめて、俯いて上目遣いで私を見る。
 やばい、めちゃくちゃきれいだ……
「どう? ……変じゃない?」
「変な訳ないぜ!! その……すごいきれいだぜ……」
 恥ずかしかったけど、がんばって素直に伝えた。
 アリスはびっくりしたように息を飲むと、それをゆっくり吐き出すように柔らかくはにかんだ。
「ぎゃーてーぎゃーてー」
「あ、ごめん、忘れてた」
 ニヤニヤしてる響子に愛想笑いを返しておく。
「まあいいさ。恋人とデート楽しみなよ」
「ちょっ、なに言って……」
「いいからいいから。あ、そうだ、さっき参道の掃除してて拾ったんだ。恋人と一緒にやったらいいよ」
 人の話を聞かないやつだぜ。
 響子は私の手に何か押し付けて、人で賑わう境内へ去っていった。
「賑やかな子ねぇ」
「まったくだぜ。で、なにくれたんだ?」
 手を開いてみると、一本の線香花火だった。



「ここに二つ出っ張りがあるだろ?」
「ええ」
「ここにな、ビー玉を引っ掛けながらこうやって……」
「へー……おもしろい。ちゃんと飲み方があるのね」
 境内にはたくさんの露店。
 りんご飴、型抜き、綿菓子、ハッカパイプ、風車売、スマートボール。
 もちろんラムネもあって、やっぱりアリスは飲み方を知らなかったから、飲み方を教えたりして。
 混雑した境内ではぐれてしまわないように、アリスの手をとってそぞろ歩く。
 片っ端から冷やかして、色々食べて、夏が終わるのを名残り惜しむ様に心から笑いあった。
 あっという間に夕暮れから夜に変わり、境内の提灯に火が灯される。
「今日は楽しかったな」
「そうね。縁日ってほとんど来たことなかったけど、こんなに楽しいのね」
「霊夢のとこじゃ、縁日はやらないからな」
 顔を見合わせて笑いあう。
「あ、そう言えば、帰る前にさっきのやって行かないか?」
「さっきの?」
 アリスが小首を傾げる。
 私はポケットから、少しよれよれの線香花火を取り出した。



 星の光しか届かない、境内の裏は真暗闇。
 二人で顔を突き合わすようにしてしゃがみ込んで、八卦炉を小さく小さく灯して線香花火に火をつける。
 縁日の喧騒がうっすら耳に届く。
 小さな火が弾け、しゅーっ、ぱちっ、ぱちぱちぱちっと花が咲いた。
「きれいねー」
「そうだなー」
 線香花火を見てるふりして、アリスの顔を盗み見る。
 赤い光に柔らかく照らされる、浴衣姿のアリスはとても色っぽくて、頭をボーっとさせられてしまう。
 私も浴衣、着てくればよかった。
 アリスとおんなじように浴衣着て、お似合いな二人でいたかったな。
 来年は絶対浴衣にしよう。
 私の髪もアリスに作ってもらって、少し大人っぽくしてもらおう。
 しゅー、じゅっ・・・
 火の玉が落ちて、目の前が暗転。
「終わっちゃったね……」
「……」
「ん?どうかした?」
 やばい……アリスのこと見すぎてた。
「いやいや・・・何でもない!」
「変なの」
 目が暗さに慣れてきて、クスッと笑うアリスの表情が見えた。
「来年は、私も浴衣着るから・・・また一緒に来てくれる?」
「もちろん。魔理沙の浴衣姿、今から楽しみだわ」
 来年の約束って、とても大切な宝物みたいだ。
 草むらからは、りーん、りーんと虫の声が聞こえる。
 今年の夏ももう終りかな。




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ほたるのひかり

  ほたるのひかり


「あ、あそこ。光った」
「ほんとだ。あ、あっちも!」
 静かに流れる小川の辺に並んで座って、蛍を眺める。
 20匹くらいかわりばんこに光って、ふらふらと夜闇に踊っているようだ。
 山の夜風がひんやりと肌をなでる。
 蛍の季節はもう終わったと思ってたけど、この辺は涼しいからかな。
「すごいわね。こんなにたくさん光ってるの見たの初めてよ」 
 魔法の森辺りではあまり見られない蛍を見れて、アリスがはしゃぐ。
「もうだいぶ少ないぜ。来年はもうちょっと早く来たらきっともっとすごいんじゃないかな」
「そうなのね。じゃあまた来年も見られたら嬉しいな」
「そうだなー」
「再来年も、その次の年も。何十年後になっても見られたら嬉しいわね」
 満面の笑顔で私の顔を覗き込む。
「何十年後かー……」
 何十年後……私は生きてるのか?
 アリスのなにげない一言に、胸の中にちょっと暗い固まりが広がっていくような感じがした。。
 今までも考えてなかったわけじゃないけど、どんなに望んでも時間は有限で、人間の私はどうしてもアリスより先に死んでしまう。
 いつかは一緒にいられない時が来るんだなって思ってしまった。
 こんなに大好きなのにな……
 そしたら、アリスは悲しむのかな……
 残されたアリスはどんな気持ちだろう。
 辛くて苦しくて悲しくて、泣きそうになった。
 でも、それはどうしようもないことなんだ。
 自分は今のところ人間なんだから。
「あ、こっち来たわよ魔理沙」 
 私は魔法使いになれるだろうか。
 わからないし、それが正しいかもわからない。
 人間の自分は好きだし、妖怪よりはるかに短い人生を懸命に生きる人間を誇らしく思う。だから人間の自分のことを大事にしたいと思う。
 人間って、なんとなく蛍みたいかもしれない。
 光を放つ時間は短いけど、こんなにきれいで儚い。
「ここに止まって、螢さん」
 アリスが手を伸ばし、蛍を呼んでささやく。
 まるで甘い香りに吸い寄せられるように、ふらふらと黄緑色の光が近づいてきた。
 幸せそうなアリスの横顔を眺める。
 私がもしいなくなっても、悲しまないでいてくれる? 
 私はやっぱり人間として、人間としての時間を必死になって生きていたいなって思ってる。
 あと半世紀ちょっとくらい。アリスと一緒に。
 寿命が尽きたら、静かに眠るようにあの世に旅立ちたい。
 私がいなくなってアリスは悲しむと思うけど、たまに何かの拍子に二人で過ごした幸せな時間を思い出してくれたらいいな。
 懐かしくなったり、嬉しくなったり、ちょっとだけ寂しくなったり。
 でもそんな思い出が、アリスのそれからの時間を生きる糧になってくれたらいいな。
 ちょっと、都合が良すぎるかな。
 でも、私が人間であり続けるなら、それは避けようもないから……
 近づいてきた蛍が、アリスの手に止まる。
「あ……魔理沙、見て見て。え? 魔理沙? なんで泣いてるの?」
「えへへ……あまりに綺麗すぎて感動しちゃったぜ」
「変な魔理沙」
 ふふふっと静かに笑う。
「アリス、来年もまた蛍、見に来ような」
「そうね。また来たいわね」
「再来年もその次もその次も、何十年先もな」
「当たり前じゃない。ずっとずっとよ」
「へへへ……」
 気づかれないように反対側をむいて、前髪を直すふりをして指先で涙を払った。
 愛する人とできるだけたくさん綺麗なものを見ようと思った。
 アリスの手から蛍が飛びたち、柔らかく光った。




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